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リメンバー、船場。 vol.3 ~ ネクタイのまるか 篇 ~

2020.01.15

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ネクタイのまるか

来年開業50年を迎える、船場センタービル。そんな船場センタービルの歴史をひも解くべく、この地で長らく商売をする商店をピックアップ。第3回は、表向きはネクタイの専門店だが、ヴィンテージウォッチショップという側面も併せ持つ[ネクタイのまるか]さんにお邪魔して現在の営業スタイルに変わるまでのお話を伺いました

船場センタービルに入居するネクタイ専門店はヴィンテージウォッチの宝庫だった。

船場センタービルに入居するネクタイ専門店はヴィンテージウォッチの宝庫だった。

ーー今日は、よろしくお願いします。[ネクタイのまるか]名前の通りネクタイ専門店と思いきや、中へ入るとヴィンテージウォッチがあって。これは気になるなぁ……と。

ありがたい話ですね。うちは船場センタービルができた当時からこの場所に入居していて。先代である父は、ネクタイをはじめとする紳士小物を扱う店を営んでいました。だから店名が[ネクタイのまるか]なんですよ。

ーー確かに、入り口付近にはズラッとネクタイが並んでいますね。

入り口付近にはズラッとネクタイ

屋号にネクタイが入っていますからね。でも、ネクタイだけを売る、では商売として成り立たない時代ですからね。

ーーなるほど。ちなみに、ヴィンテージウォッチを扱うようになった経緯は?

今からだいたい30年くらい前ですかね。当時、30代前半の頃、1933年に誕生したロレックスの防水自動巻時計・バブルバックを手に入れたんですよ。これをキッカケに、ヴィンテージウォッチにハマってしまって。自分の趣味としてヴィンテージウォッチの収集を始めたんです。

ーーで、ある程度集まったタイミングで店に置き始めた……と。

そうですね。もともとは自分の趣味だったので店に並べると先代に話したときは反対されたんですよ。でも、先代から代替わりするとき「ネクタイだけではやっていけないかも」という漠然とした考えもあって。反対を押し切ってヴィンテージウォッチを並べることにしたんです。

ーー置き始めてからはどうでしたか?

最初はただのコレクターに毛が生えたようなものでしたから、不安もありました。でも、仕事を続ける上での一番の活力っていうのは「好きかどうか」だと思うんです。僕の場合は、ヴィンテージウォッチが好きで、愛情もあった。だから、もしも売れなかったとしても楽しくやれるっていう自信はあって。

好きなものを売りつづけ、コレクターが遠方からも来店する隠れ家へ。

好きなものを売りつづけ、コレクターが遠方からも来店する隠れ家へ。

ーーたしかに。好きなことを仕事にすると、続きますよね。

まず、ロレックスクラスの時計になると価値が下がることはまずないんですよ。むしろ、丁寧に管理し続ければ価値は上がり続けるわけで。ましてやヴィンテージウォッチですから、流行的な浮き沈みも少ない。そうなると、一種の資産になる。

ーー在庫を抱えながらも、売り抜けない場合のリスクも少ない……と。扱っているメインが30〜50年代。今、トレンドど真ん中のスポロレ。いわゆる、サブマリーナあたりは扱わないんですか?

ヴィンテージウォッチの在庫は常時170種ほどがスタンバイ

ヴィンテージウォッチの在庫は常時170種ほどがスタンバイ

うーん。僕の単純な趣味ですかね。30年代〜50年代の時計は、丸みがあって温かみがあるんですよ。そこが好きで。スポロレはサイズが大きいでしょ。日本人の腕であれば、よっぽど体格がよくない限り似合わないんじゃないかなと思っていて。

ーー好きなものだけで商売をする。そこが一環しているんですね。

そうですね。仕入れは、香港やニューヨーク、ジュネーブあたりで行うんですが、仕入れた時計は必ずオーバーホールに出していて。誰かの手に渡るときは完璧な状態で渡したくて。これも好きゆえのことですね。

ーーヴィンテージ初心者が一番怖がるとことが、急に壊れてしまいそう……ってところだと思うので、オーバーホールと試着を乗り越えた品が並んでいるのは安心感がありますね。

この日はオーバーホールから帰ってきた50年代のブランパンを試着。

この日はオーバーホールから帰ってきた50年代のブランパンを試着。

ヴィンテージウォッチはそんなに安いものではないですからね。それゆえにお客さんに届けるまでの管理とメンテナンスは大切。うちで扱う時計は10万円代〜1000万円オーバーのものまでと幅が広いですが、すべての時計でその工程を踏んでいて。特に、若い子が初めて10万円の時計を買うというシチュエーションがあるとします。それってコレクターが100万円の時計を買うのと変わらないって思うんですよ。そのためにも、価格で判断せず全てを最高の状態に仕上げているんです。

ある意味ビルにとってのリペアみたいな話

ーー素晴らしいお話ですね。僕もヴィンテージウォッチデビューしたくなってきました!ちなみに、船場センタービルは50周年。ビルの現状はどう思われますか?

外壁の全面改修があったり、こうやってロマンさんみたいな若い人がメディアを作って取材をしてくれている。これはある意味ビルにとってのリペアみたいな話だと思うんです。

ーーなるほど。

そのおかげで外壁の印象はガラっと変わったし、発信することで少なからず活気も出てきているとは思うんです。でもやっぱり中身が大切ですよね。船場センタービルにはもっと、新しいネジや歯車となる若い店が入ることが重要だと思っていて。

ーーオーバーホールですね。

そうして、新しい風が吹くことは僕らみたいな長らくココで商売している人にもいい影響になると思うんですよ。頑張ろうって思いますし、若者と交流もできますしね。それに、2025年には大阪で万博もありますし、船場エリアはかなり立地がいい場所ですから。

ーーたしかに船場センタービルに入居するなら、今なのかもしれませんね!今日はありがとうございました。

先代から受け継いだ店で、ヴィンテージウォッチ

先代から受け継いだ店で、ヴィンテージウォッチという最高の相棒を扱う[ネクタイのまるか]さん。好きなものを商売にすることが、継続の秘訣と語る店主の表情をみれば、その真意は一目瞭然。ヴィンテージウォッチコレクターはもちろんだが、時計のことはよく知らない……という若者にこそ、お店に訪れてその魅力を肌で感じてほしい。

取材・文・写真:ロマン/近澤惇

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