ニューカマーのうどん屋は、讃岐仕込みの本格派。
トッピングのネギ、生姜を豆皿に盛り付ける店主。
2018年の10月にオープンを迎えたうどん処[重巳]。飲食街が軒を連ねる4号館の一番隅に居を構える本格派だ。出会いは遡ること数ヶ月前、まだ飲食店が閉まっている午前10時頃に4号館へ訪れると、出汁の香りが鼻を通り抜けた。「うまそうな匂いだ……」と、匂いの発端へと足を進めると半分開いたシャッターの中で、タオルを巻いた店主が仕込みに勤しんでいた。「ええ出汁がある店は、うまい店に違いない」そうして、オープンの時間に照準を合わせて店へ飛び込んだ。店内はカウンターとテーブル。メニューを眺めると讃岐仕込みらしきうどんといくつかのトッピング、ランチセットなどがある。
グラグラと沸く茹で場は、小麦のいい香りが立ち込める。
開店時に飛び込んだにもかかわらず店には常連らしき人達が続々と来店し、思い思いの席に座り思い思いの注文をする。あとで聞くと、常連さんの中には「この席にしか座らない」といったルールのある方もいるそうだ。そんな情景を眺めていたせいか少し出遅れて、ひやかけのセットを注文。少しすると、黄金色の出汁に美しい麺線のうどんが浸されたひやかけ。青のりを忍ばせた鯛ちくわの天ぷら、ほかほかのご飯にたまごが目の前にサーブされる。
風味豊かでサクサクの天かすのアクセントは青のり。
それと同時に「卵かけ御飯には、色の薄い醤油をお使いください!卓上の天かすを入れて食べるのもオススメですので是非」と、丁寧な説明に加え明るい笑顔の店主。「これはいい店で間違いない」と、相成ったワケだ。お味のほどは後述でのお楽しみにしていただくとして……。それからと言うもの船場センタービルへ訪れるたびに足を運んでしまうほどにハマってしまったのだ。
4号館地下2F。駐車場の近くにあるうどん処[重巳]の暖簾が目印。
頻繁に通い出すようになったこともあってか、店主と会話する機会も増える。聞けば「もとはアパレル出身で、飲食店をやるとは思っていなかったんです。でも、漠然と自分で店を持ちたいなぁっていうのがあって。アパレルで独立は難しい、では飲食ならどうだろう。そう思って、勤めていたアパレルショップを辞めて、飲食の世界に飛び込んだんですよね」と、店主。居酒屋や酒屋など、飲食にまつわる職を転々とし、たどり着いた食べ物がうどんだったそうだ。
「和食や寿司……いわゆる王道の飲食業にも憧れたんです。でも、15歳で弟子入り。そこから修行を積んでようやく一人前な世界じゃないですか。別の職種から転職した僕が一人前になるには、時間がかかりすぎる。では、何がいいんだろうと考えたときに、自らが食べるのも好きだったうどんにたどり着いたんです」
茹で場では、コシの強い讃岐うどんがグラグラと湯がかれる。
「うどんと決めてすぐに、香川へ移住を決めました。まずは、本場の味を知るためにゲストハウスを拠点にして10日以上食べ歩きながら修業先を探したんです。行ってみて驚いたのは、圧倒的に家族経営の店が多かったこと。それゆえに、僕らみたいな外様が修行できる場所が少なくて」そんな状況の中しっかりと技術が学べる店に出会い、およそ3年間の修行を積み帰阪した。
「茹で場は、一番落ち着くんですよね。無になれるので」
修行を終えて、ようやく物件探しがスタート。オフィス街で店をやるべく本町エリアを中心に内覧をしていく中で、船場センタービルに出会ったそうだ。「実は、ここでお店をやるまでは、船場センタービルのことをよく知らなかったんです。日曜日が休館日というデメリットもあったんですが、いろんな会社やお店が入っている場所で社食的に使ってもらえそうだし、地下鉄からも直結。賃料も含めてかなり、条件が良かったんです。」そうして、この地に居を構えることとなったうどん処[重巳]。アパレル時代に培った接客力と本場仕込みの味が評判を呼び、瞬く間に人気店へと昇華した。