知
出

リメンバー、船場。 vol.1 ~ 紳士服J&S 篇 ~

2019.10.15

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

紳士服J&S

今年で開業50年を迎える、船場センタービル。そんな船場センタービルの歴史をひも解くべく、この地で長らく商売をする商店をピックアップ。第一回では、紳士服の専門店[J&S]さんにお邪魔して、お店やビルの変遷をお伺いしました。

32歳で、突然のリストラ。縁があったこの場所でお店を。

32歳で、突然のリストラ。縁があったこの場所でお店を。

ーー今日は、よろしくお願いします。早速ですが、どうして船場センタービルでお店を?

船場センタービルとの付き合いは40年近くになるんやけどね。もとは、雇われて紳士服の販売をしていたんですよ。でも32歳の頃に突然のリストラにあって。こりゃ、困った……と、頭を抱えていたんですね。そんな時に、知人に「ビル内の空き物件を紹介したろか?」って言われて。お金もなかったけど、僕には紳士服しかなかったんでね。1985年に無理をしてお店を持ったんです。

ーーバブルに入る少し前くらいですか。

まさに、その通り。景気の良さの後押しはもちろんやけど、この場所で紳士服の販売をしていたことが功を奏して。リストラにあったお店によく来てくれていた常連さんがウチへも足を運んでくれていたんですよね。それに、当時は今と違って舶来のエエもんを扱っているお店が少なかったこともあって、需要があったんですよね。

ーーなるほど。

当時は、この辺の地価はドンドン上がって、商売も繁盛する。でもね、そんなのは長く続きませんからね。バブルの崩壊と共に、その盛り上がりも鎮火していくわけですわ。そんなときも、常連さんのおかげで、山場を乗り越えられて。他のお店は閉店してしまった場所も多くてね。

この日は、新作スーツの棚卸し。J&Sでは、スーツのオーダーも可能。

この日は、新作スーツの棚卸し。J&Sでは、スーツのオーダーも可能。

ーーなんと……。ちなみに、3号館の1階でここより古いお店はあるんでしょうか?

うーん、うちの向かいは長いかな。あとは、インテリアの卸売を専門にされている秋月貿易さんくらいですかね。長年やっている店が多いってイメージがあると思うんやけどね、意外と入れ替わりが激しくて。昔は、1号館にボーリング場があったり、ゴルフのスクリーンがあったり……それこそ、遊べる場所も多かったんやけどね。

ーーJ&Sのラインナップは昔と変わらず、紳士服一本勝負ですよね。

基本的には変わらないけどね。クールビズが推奨されていることもあって、カジュアルな商品も増えました。僕はネクタイをビシッとシメるスタイルも好きなんでね。今でもネクタイは無くさず置いていますけどね。

レジの前には、ズラリと並ぶネクタイ。スーツスタイルのアクセントにもってこいな、ポップな柄が多い

レジの前には、ズラリと並ぶネクタイ。スーツスタイルのアクセントにもってこいな、ポップな柄が多い

ーー確かに。スーツを着る機会が減っていますよね。

そうなんですよね。でも、紳士服ってのはすごく素晴らしい衣服なんですよ。動きやすい上に洗練されていて。どこへ行っても恥ずかしい思いをすることもありませんしね。うちでは、オーダーもやっていて5万円からオリジナルスーツが仕立てられるんで、ぜひ若い子にも仕立てに来てもらいたい。絶対、紳士服の魅力にハマりますから。

変わりゆく船場は、今が一番、おもしろい。

変わりゆく船場は、今が一番、おもしろい。

ーーズバリ、今の船場センタービルはどうですか?

いい意味で、楽しい場所になっていると思いますよ。昔は、それこそ「素人お断り」って掲げた卸売専門店ばかりでしたけど、今は小売もしている店が増えてきていて。つまり、一般のお客さんでも楽しめる場所になりつつあるってことなんですよ。

ーー船場センタービル=卸売というイメージがありました。

卸売なら、大きなお店をやっている人がたくさん仕入れてくれて、多くの人の手に自分が仕入れたモノが売れる楽しさが。小売の場合は「旦那に似合うかしら」って買いにくる奥さんもいれば「大事な約束で着るための服を探しに来て」ってお客さんもいる。つまり、距離が近い分親身になって商品を売れるわけですよ。どちらも楽しいんでね、もう皆さん両方やるべきやなって思ってます。

この日も「旦那の用のシャツを見立ててほしい」と、常連の奥様が来店。

この日も「旦那の用のシャツを見立ててほしい」と、常連の奥様が来店。

ーー逆に、船場センタービルに足りていないと思うところはありますか?

子どもを遊ばせる場所とかね。お爺ちゃんやお父さんが服を選びに着ている時に、奥さんと子どもが過ごせる空間があればバッチリやね。

ーー今日はありがとうございました。次は、スーツを仕立てに来ます!

32歳で突然のリストラ。そこから一念発起してお店をオープン。バブル景気から崩壊までを経験しながらも創業時から、紳士服一本でお店を営むJ&Sさん。カジュアル化が進む世の中だからこそ、特別な日の一着を仕立て、街へ出かける喜びは一入だ。紳士服フリークはもちろんだが、スーツを着ない人こそ、足を運んでみてほしい。

取材・文・写真:ロマン

記事一覧に戻る

PAGE TOP